なんにもムダにしない
全ての写真:Andrew Burton
わたしのことは「エバ」と呼んでね。
「鯨犬エバ」とか「いい子」と呼ばれても返事をするわ。わたしは7歳のピットブル/コーギー/ジャックラッセルテリアの雑種。いまはワシントン州サンファン諸島付近のセイリッシュ海をセーリング中なの。ついさっき自然愛好家のともだちから、数頭のオルカ(キラーホエールとしても知られてるけど)の目撃情報が入ったところ。さあ、わたしの出番よ。
波が打ち寄せるたびに、アザラシやらネズミイルカやら昆布やらの香りが漂うけど、それらに興味はないの。わたしが探しているのはウンチ。これがこの4年間、減りつづけるサザンレジデント・キラーホエールの個体群を研究するチームの要員として、わたしが誇りをもって取り組んでいることよ。この仕事は、2009年からワシントン大学で鯨類の研究をしているデボラ・ガイルズ博士が率いるもの。みんな彼女のことをガイルズと呼んでいるけど、わたしはママって呼ぶわ。
人間のことは大好きだけど、彼らの嗅覚はわたしのに比べるとさっぱりね。わたしの超敏感な鼻は、1km半先の水面に浮かぶオルカの糞だって嗅ぐことができるの。サンプルの採取としては、いちばん非侵略的な方法でしょ。ママが言うには、ここのオルカたちはわたしの助けを必要としているんだって。
セイリッシュ海を故郷とするサザンレジデント・キラーホエールは、J、K、Lというポッド(家族単位の群れ)から構成されていて、個々のオルカを名前で識別できるふたつしかない個体群のうちのひとつなの。レジデント(住民)というあだ名の由来は、サーモンが産卵のためにカナダのフレーザー川に戻ってくる5月から10月にかけてセイリッシュ海を訪れるのが、キラーホエールのこれまでの通常行事だったから。
でも、そのパターンは変わってきているわ。サーモンが減っていることと、船舶による汚染や人工的な化学物質が流出していることなどで、オルカは餌を求めて他の場所へと移動せざるを得なくなって、その結果、個体数に影響が出ているの。そのせいでサンプル採取は難しくなるけど、わたしにはもってこいの挑戦よ。
わたしは最初から〈ワイルド・オルカ〉の一員だったわけじゃないけど、いまとなっては運命だと思ってる。ママの妹がカリフォルニア州サクラメントの路上でわたしを見つけたのは、2015年のこと。あんなに寒い思いをしたことはなかった。その年の暮れには、ママがわたしを養女に迎えてくれて、絶滅危惧種の動物の糞の嗅ぎ分け方を犬に教える訓練プログラムに参加させてくれたの。それから何回か試験を受けて、優秀な探知犬だってことが主任トレーナーに認められたのよ。まあ、わたしには朝飯前のことだったけどね。
〈ワイルド・オルカ〉での仕事ではわたしは船首に立つことが多いから、自分でもタフだとは思ってるけど、さらに強くなれる何かがあるのはいいわ。たとえば仲間のデニスからもらったゴーグルとか、パタゴニアのパフ・ベストとか。デニスは地元のWorn Wearのリペアチームと一緒にデザインして、ダウン・セーターやナノ・パフ・ジャケットのあちこちの部分を縫い合わせて作ってくれたのよ。おやつを入れるための、こんなかわいいポケットも付いてるんだから。
海で働きはじめた最初の年は、数十ものオルカの糞を見つけたわ。それ以来100を超えるサンプルを追跡してきたけど、そのひとつひとつからママは妊娠やストレスレベル、汚染物質の特定や食生活などが探知できて、何がサザンレジデントの個体数に影響を与えているのかがわかるらしいの。よく言ってるわ、「たったひとつの糞のサンプルを見つけるのは、宝の山を掘り当てたようなものよ」って。
いまこの海域に残っているサザンレジデント・キラーホエールは73頭だけ。わたしたちが集めるデータは、これ以上オルカが減るのを防ぐためにとるべき行動を、地元の共同体や議員に示すために使われるんだって。政府、草の根団体、人間、そして犬、わたしたちみんなの協力が不可欠なの。わたしの海のともだちが力強く生きて、群れの数を増やせるように。わたし流に言わせてもらえば、みんなの「足助け」が必要なのよ!