循環型の追求
そもそもの発想は、パタゴニア製品を埋立地で終わらせないことでした。ポリエステル繊維1本1本をリターン(回収)、リサイクル(再生)、リユース(再利用)する。それはまだ「ゼロ・ウェイスト」という業界用語が生まれるかなり前の2005年のことで、そのほとんどがもともと必要なかった衣類で埋立地をあふれさせている、産業革命前からつづく規模とスピードへの渇望に対する反論でした。
パタゴニアは『CradletoCradle(邦題:サステイナブルなものづくり−ゆりかごからゆりかごへ)』という書籍に感銘を受けました。1990年代のコンセプトをまとめ、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の基盤を定着させた内容で、その後私たちは再生可能なエネルギー、効率的な水使用、社会的公正な慣行による製品設計を実践し、これらの製品をリサイクルして繰りかえし使いつづける「コモンスレッズ・リサイクルプログラム」を開始しました。
まずは石油を原料とするポリエステルに着目し、キャプリーン・ベースレイヤーからそのプログラムをはじめました。使用済みのベースレイヤーをお客様から回収、リサイクルして、新品同様のポリエステルを作る試みでした。実際のリサイクルは、私たちのパートナーとなった革新的な化学リサイクルシステム「エコサークル」を開発した日本のテイジンが担いました。それは石油依存を削減し、古くなったキャプリーン製品を再利用する素晴らしい方法に思われました。
ところが、思いどおりには展開しませんでした。第一の問題は供給量でした。パタゴニア製品は丈夫で長持ちするよう作られているため、使用済みのキャプリーン・ベースレイヤーを大量に集めることはできませんでした。経済学的に論じるまでもなく、供給量を十分に確保できないと、工業用リサイクル機械の能力を活用することはできません。
とどめの一撃となったのは、テイジンがリサイクル工場を中国に移転させた2014年でした。中国には廃棄物処理に関するより厳しい規制があり、私たちはこの新たな中国での操業基盤に沿うことができず、平身低頭で撤退することとなったのです。
“製品数に上限を定めるのは、利益に斧を振りおろすように聞こえるかもしれません。 しかしサーキュラーエコノミーに必要なのは、同じ製品から利益を生み出し、また実際に バージン・ウールよりも安く製造できるリサイクル・ウールのような素材に乗りだすことです。”
それから約20年が経ったいま、賢明な消費者がアップサイクルの重要性を理解し、企業が環境対策を訴え、さらにより良い設備が整えられているにもかかわらず、アパレル産業の大部分ではその循環型をほとんど考慮していません。それはパタゴニアでさえもです。
「私たちは一歩抜きんでてはいるものの、概してブランドは非常に遅れているので、突っ込んだ話ができません」と、パタゴニアの素材開発を率先するシアラ・ケイツは言います。「目標レベルが低いのです」
アパレル産業はおもに「テイク・メイク・ウェイスト(取って、作って、捨てる)」という、リニア(直線)型経済をモデルとすることをつづけています。一方、資源の有効利用を優先するサーキュラー/クローズドループ(循環)型では、廃棄物はアップサイクルされて新たな製品となり、何度も使用されます。この流れにしたがえば衣類から発生する炭素、廃棄物、水使用のフットプリントを最大73%削減することができます。たとえばよくあるアルミ缶は採掘されたボーキサイトという鉱石がアルミナという白い粉末になり、圧縮されて板や缶を作るためのアルミニウムの板材になります。アルミ缶は液体を入れることができ、使用後はリサイクルを奨励されていて、本来の要素を失うことなく溶解もできます。よってアルミ板は何度も何度も新たな缶に再生されます。これが典型的なクローズドループ型のモデルですが、アパレルや織物産業にはこのような循環システムはありません。
パタゴニアは他のほとんどのブランドに比べて、循環システムへの設備が整っている方ではありますが、同時に1973年の創設以来飛躍的に成長し、この10年間で収益は4倍になりました。このような成長はある時点で、廃棄物と排出物を削減するペースを追い越してしまいます。
最新の報告書から、人間の活動の劇的な変化の必要性は明確です。2018年、〈気候変動に関する政府間パネル〉は、地球の気温上昇を1.5℃に抑えなければ(現時点ですでに産業革命以前の平均気温から1.0℃上昇)、温暖化による影響は壊滅的だと警鐘を鳴らしました。アパレル産業は世界の炭素排出量の最大10%を占めており、新たなモデルを適応させずにいけば、2050年までに3倍以上の資源を要することになります。
すでに世の中に出ている衣料品というモノの量を考えると、理論上では、中古衣料品の再販がすべてのブランドの意識に組み込まれているべきです。消費者は再販に強い関心を示しています。〈ThredUp(スレッドアップ)〉によると、2019年の中古衣料品の再販は一般の小売に比べて25倍の速さで成長し、2024年までに640億ドルに達する見込みです。しかし真の循環型を実現するためには、社外のプラットフォームに依存するのではなく、ブランドが基礎構造を構築して独自のアップサイクルのシステムをもたなければなりません。
パタゴニアは中古衣料品に関して新参者ではありません。2011年、「コモンスレッズ・リサイクルプログラム」は、〈eBay(イーベイ)〉のウェブサイトでお客様が中古のパタゴニア製品を売買する「コモンスレッズ・イニシアチブ」に発展しました。さらに2 年後にはそれが「Worn Wear」となり、中古品を米国の特定の店舗で購入できるようになりました。その後2017年にはオンラインで展開するようになり、開始以来130,000 点以上の製品を修理してフィールドで遊ばせつづけてきました。しかしパタゴニアの事業において、「Worn Wear」での売上は500 万ドルに過ぎません。新品は依然として君臨しているため、使用済みの製品を下取りするためのより魅力的な動機が必要です。
パタゴニアはまもなくコロラド州デンバーでスノー製品を貸し出すという、イニシアチブの試行を開始します。新品のスノー用パンツ、ジャケット、フリース一式を購入する代わりに、お客様はウェアを借りて、使い終わったら返却します。ウェアはプロによって洗浄され、ふたたび貸し出されます。5 着の新品のジャケットを資源調達、縫製、輸送する代わりに、1着のジャケットがあるということです。パタゴニアのカーボンフットプリントはその97%がサプライチェーンで発生する(うち86%が原料由来である)ことを考えると、この試みは非常に効果的です。
究極的には、循環型の核心は製品の引き取りプログラムではなく、製品がそもそもどのようにコンセプト化されているかを再考することです。「ビジネスの中核戦略であるべきです」と言うのは、かつてパタゴニアの社会的責任マネージャーを務め、現在は循環型を目指す衣料品ブランドを支えるプラットフォーム〈TheRenewalWorkshop(ザ・リニューアル・ワークショップ)〉の共同創設者であるニコル・バセット。「ブランドは『これがどこから来て次にどこへ行くのか』を問いつづけなければなりません」
ここ数年、パタゴニアはリサイクル素材の使用を最優先してきました。たとえばレスポンシビリティーは、4.8本のペットボトルと136グラムのコットンの端切れを含むリサイクル素材を100%使用し、フェアトレード・サーティファイドの縫製を採用したTシャツで、一般的なコットン製Tシャツに比べて水の使用量を96%、二酸化炭素の排出量を45%削減しています。さらにこの秋までにパタゴニアが使用する素材の90%以上が、追跡可能、リサイクルまたはオーガニック素材になります。
来たる「ティーサイクル・Tシャツ」は、完全なライフサイクルを意識した製品を作るパタゴニア初の挑戦となります。翌春にはパタゴニアおよび他社ブランドの使用済みTシャツを使って、ゼロ・ウェイストのTシャツを作ります。重要なのは、このTシャツの製品寿命を通じて発生する廃棄物すべてにパタゴニアが責任をもつ、という点です。このTシャツは製造段階で生じて機械的に再生されたプレコンシューマーリサイクル・コットンと、消費者から回収して化学的に再生されたポストコンシューマーリサイクル・コットンを混紡し、バージン繊維と同等の品質を誇る素材で作られるもので、埋立地で終わることが永遠にないかもしれません。
キャプリーン・ベースレイヤーのリサイクルは成功にいたりませんでしたが、それは私たちが現在展開している試みの教訓となりました。まず今回の取り組みでは、供給量は問題になりません。ネバダ州リノにあるパタゴニアの倉庫には、返送されたTシャツを乗せたパレットが無数に積み上げられています。キャプリーン・ベースレイヤーのようなテクニカル製品とは異なり、Tシャツは製品寿命が短く、販売数も多いからです。
また私たちは今回さらに良い基礎構造を築くため、糸から生地そして衣類までの全製造工程を所有し、端切れや糸くずの収集までを管理するメキシコの製造業者〈VerticalKnits(バーティカル・ニッツ)〉とパートナーを組みました。また、ほぼあらゆる廃棄物(段ボールさえも含む)を新たな繊維に再生することができるフィンランドのリサイクル業者〈InfinitedFiber(インフィニテッド・ファイバー)〉とも協力しています。
これはコットンやポリエステル、さらに特定の混紡素材など、リサイクル手段が整っている製品には有効ですが、テクニカル製品は機能性基準に達するための特殊加工や備品や製造方法を要するため応用できません。たとえばDWR(耐久性撥水)加工は、現時点では持続可能な代替がありません。しかしパックパックやウェーダーには依然として防水性加工が欠かせません。
「そこが難しいところなのです」とケイツは言います。「私たちは機能性に優れた実用的な製品を作っています。しかし機能性が落ちれば、ウェアは使われなくなり、ゴミとなります。機能性が持続し、リサイクルも可能な製品の製造をどう再考するかが課題です」
ケイツは来年あたりの、ラゲージ製品の改良とレインウェアの新たな加工の選択肢をほのめかしています。一般的にレインウェアの素材はポリエステルが基盤で、ポリウレタン・コーティングを施しますが、こうしたラミネート加工のせいでリサイクルが難しくなるからです。現在私たちは、製品寿命が尽きた際にポリエステルのリサイクル業者に受け入れてもらえるよう、ポリエステル系の素材にはポリエステル系のコーティングを施す実験をしています。
そのことで私たちは、素材面で循環型に一歩近づくことになるかもしれません。しかしフィンランドからメキシコへのリサイクル・コットンの輸送で発生する排出物や、製品の製造に必要なエネルギーについてはどうでしょうか。またリサイクル素材を含まない厚手の織り素材や、機能性基準を満たすための機械的および化学的な加工が施された素材など、フットプリントが著しい製品もあります。パタゴニアは太陽光エネルギーと風力エネルギーに投資し、現在アメリカ国内で使用する自社のエネルギーは100%太陽光エネルギーで賄っていますが、サプライヤーの工場の大半はいまだ化石燃料で稼働しています。1つの解決策は、サプライヤーと直接協力してエネルギー使用量を削減し、化石燃料を切り替えることです。
しかしパタゴニアの環境的責任シニア・マネージャー、ポール・ヘンドリックスは、「現地でのエネルギー使用の見直しは難題です」と語ります。「より効率よく操業するためにアップグレードできるシステムは存在するのか。石炭に代わるエネルギー源を、とくに地元で供給することはできるのか。また新たな機械を導入する可能性をふまえたうえで、サプライヤーにはその切り替えに対する意欲があるのか」したがって、もし素材もエネルギーも汚染の原因となるにもかかわらず、企業が依然としてお客様に製品を提供する必要がある場合、循環型に近づくための明白な(あまり資本主義的ではない)解決策は、「作るものを減らす」ことです。ベター・セーター・1/4ジップには18種類もの異なるカラーが必要でしょうか?「私は製品ラインの縮小が不可欠だと考えています。汚染度の高い製品を排除し、コレクションの大きさ以外に目を向けるのです」と、ヘンドリックスはつづけます。「これは活動家の観点から達した結論です。私の役割はものごとに挑戦すること。他の人たちはそれに挑戦すること。うまくいけば私たちの中間で折り合いがつく」在庫の縮小には、デッドストック(売れ残り製品)が減るという大きな利点があります。工場が潜在的な誤りや品不足を懸念して予備の素材を製造したり、オーダーがキャンセルになったり、色の不具合が見つかったり、理由は何であれ、製造数が多ければ多いほどそれにともなう廃棄物も多くなるのです。
製品数に上限を定めるのは、利益に斧を振りおろすように聞こえるかもしれません。しかしサーキュラーエコノミーに必要なのは、同じ製品から利益を生み出し、また実際にバージン・ウールよりも安く製造できるリサイクル・ウールのような素材に乗りだすことです。「そこにビジネスモデルがあるのです」とバセットは言います。「ブランドは自動車会社のようなものと考えてください。新車も売り、中古車も売り、認定中古車も売る。絶えず新しいものを作るのではなく、より効率の良い方法で成長し、収益を上げるのです」製品の引き取りプログラムも、カーボンポジティブの目標も、進行中の積極的なアクティビズムも、循環型への旅のはじまりに過ぎません。私たちは製品を引き取りながらも、より大きな課題が残っていることを自覚しています。「パタゴニア製品のライフサイクルの実情をより深く認識するために、私たちは努力しなければなりません」とケイツは言います。「どの製品にも寿命があり、そこから新たな製品を作り出すのが私たちの仕事。それが今後、目指していくべきモデルです」